2014年12月14日日曜日

羽生選手の激突後の演技、どう見るか


(論評対象 20141112日付朝刊~19日付朝刊)

横浜国大ジャーナリズムスタジオA班 岩下詩帆


8日、上海で行われたフィギュアスケートGPシリーズ第三戦の中国杯で、羽生結弦選手が男子フリーの演技直前の練習中に中国人選手と衝突した。羽生選手は頭部や顎を負傷したものの演技を行い、総合で二位に入った。
各紙はこの事故を受け翌日の時点では事故の様子を詳細に記載し、羽生選手のスケートに対する前向きな態度を評価した。朝日は9日付朝刊社会面第1面において「流血の羽生、意地の舞」と題した記事を掲載し、毎日も9日付朝刊社会面1面で「執念を見せつけた」として演技を行ったことに肯定的な見方をとった。一方読売は9日付朝刊社会面第一面で「羽生選手投資に称賛の声」と見出しを掲げ、演技を行った羽生選手を他2社よりさらに高く評価した。
しかし朝日と毎日は羽生選手が帰国した10日以降、羽生選手の出場に懸念を抱く主張へと転じた。両社はともに社説を掲載した。朝日は14日付朝刊で「安全を最優先にしよう」と題し、毎日は12日付朝刊で「脳しんとうを軽視するな」と見出しを掲げた。双方とも羽生選手の将来を思い演技をやめさせるべきだったと主張した。また脳しんとうやセカンドインパクト症候群など頭を打った場合の危険性を述べ、他のスポーツでの対応にも触れた。その上で朝日はフィギュアスケート界でも安全を守るルールや仕組みを整えるべきだと唱えた。毎日はさらに踏み込み、スポーツ界だけでなく社会全体で脳しんとうの怖さを共有することが不可欠だと述べた。

朝日は11日付37面で筑波大教授やカナダのスピードスケート連盟が国際スケート連盟に対し、ガイドラインの設置を提言していることも掲載した。具体的な対処法を載せていた点が良かった。毎日は11日付朝刊社会面2面で羽生選手の衝突後の様子が脳しんとうの恐れがある状態であったことを具体的に4つ指摘しており、その点が分かりやすかった。選手第一主義という意味のアスリートファーストという言葉も印象的だった。一方読売は、9日付朝刊社会面1面でファンから心配される声がインターネット上にあがったことは述べたが、それ以上の記載はなかった。読売も朝日や毎日のように安全性について言及した記事があったほうが望ましかった。
 
  羽生選手はソチ五輪の金メダリストであり、まだ19歳という前途多望な選手である。そのためフィギュアスケート界での今後の安全策が課題であるという朝日の指摘や、脳しんとうにおける一般認識を広める必要性を説く毎日の指摘は的をえていたように感じられた。

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