2014年11月15日土曜日

青色LED ノーベル物理学賞に輝く

(評論対象 2014108日付朝刊〜1014日付朝刊)
横浜国立大学ジャーナリズムスタジオB班 藤井智子
 スウェーデン王立科学アカデミーは、7日、ノーベル物理学賞を青色発光ダイオード(LED)の実用化に貢献した、赤崎勇・名城大教授、天野浩・名古屋大教授、中村修二・米カルフォルニア大サンタバーバラ校教授に授与することを発表した。各紙ともに、この喜ばしい知らせを大々的に報じている。
 朝日新聞はこの話題に以前から注目していたことがうかがえる。一足早く独自に座談会を開催し、109日付朝刊の1面には、「好きだから続けた」「世の中変えられる」と2人のコメントを見出しに、赤崎氏、天野氏師弟コンビの会談の様子を掲載した。朝日は事実を詳しく伝えるも、多方面に対する影響についての記事が少なかった。
 一方、毎日新聞は、同じく109日付朝刊の1面に「LED平和的な技術」という見出しの下、赤崎氏の単独インタビューの様子を掲載している。108日付夕刊の1面には「中村氏『怒り』原動力」とあり、中村氏の苦境の人生に焦点を当てながら掲載していた。また、毎日のみ、同じく108日付夕刊の社会面1面には名古屋大学のノーベル賞受賞者数について、1011日付朝刊第2社会面には天野氏、中村氏が文化勲章を授章したことについて掲載しており、視点を他社と変えた独自性ある記事をおもしろく感じた。
 読売新聞は対談においては108日朝刊特別面に中村氏の電話対談の様子を大きく報じていた。他にも、108日付朝刊には、トップ記事12、3面、社説、第1、第2社会面トップ、国際面と大きく6回にわたって掲載しており、他の日を比較しても、読売が他の2社よりも圧倒的に掲載量は多かった。だが、内容的には一部重複していた。評価できるところがあるとすれば、8日付朝刊において国際面で各国メディアの報道の様子、9日付朝刊経済面でLED市場について掲載するなど、この受賞が決まり、多方面に影響を及ぼすことについて多く報じていることだろう。
 社説においては、3社とも研究職の環境向上を訴えていた。朝日、毎日両者は、研究に短期的成果を求める日本を危惧し、時間と資金を研究者に与えることの重要性を説いている。一方、読売は日本の研究現場における人材不足と競争力の低下を訴え、今回の受賞をきっかけとして研究業界が活気づくことを期待している。今回の出来事によって環境が改善され、新たに素晴らしい研究者が生まれることを期待している。


2014年11月11日火曜日

21世紀照らす青い光

(対象記事 10月8日朝刊~10月15日朝刊)

筆者:ジャーナリズムスタジオ1年A班、釜堀美里


青色発光ダイオード(LED)を開発した日本人研究者3名が今年のノーベル物理学賞に選ばれた。名城大の赤崎勇教授、名古屋大の天野浩教授、米カリフォルニア大学の中村修二教授である。青色LEDはかつて「20世紀中の実現は困難」と言われていたが、赤崎氏、天野氏の師弟が地道な研究で開発に成功し、中村氏の技術が実用化に結び付けた。開発から実用まで日本で一貫して成果を出せたことは大きい。

 まず初報が出た8日付朝刊の時点で、朝日・毎日は6ページ分であったのに対して読売は8ページにわたって取り上げた。その後に出た記事も量は読売が一番多く、読売のこのニュースに対する注目度がうかがえた。各社ともに青色LEDの発明が最高の形で認められたことを日本人として誇りに思う、といった姿勢の取り上げ方をした。

 また三社ともに受賞者たちに人間性に焦点を当てた記事を掲載した。まず朝日は8日付け朝刊で赤崎氏、天野氏師弟の対談を掲載した。読売は9日付朝刊で師弟対談の記事を、毎日は9日付朝刊に赤崎氏の単独インタビューを掲載した。朝日はいち早く師弟対談を掲載した点に綿密な事前準備がうかがえた。また朝日は学生時代のエピソードを取り上げるなど3者の原点を追求するような内容の記事が多かった。そして読売は8日付夕刊の一面に中村氏が以前起こした企業科学者の待遇についての訴訟に焦点を当て、中村氏が未だ日本の研究者への対応に怒りを感じていることを取り上げていた。中村氏の訴訟の件について掘り下げていたのは読売だけであり、他社には無い着眼点は評価できる。一方で毎日は開発と実用化までの詳細を他社より詳細に掲載してあった。

青色LEDが成果を出せたのは3名が愚直なまでに一つの道を追求し続けたからである。しかし近年の日本では目先の成果を追い求める風潮が強まり、企業研究者の貢献が軽視されがちである。社説では三社ともにこのような日本の研究環境についての危惧を示した。朝日は大学での研究資金配分に短期決戦の要素が色濃くなっていることを挙げて、ノーベル賞受賞を喜ぶだけなく施策を検討すべきだと主張した。同様に毎日も日本の近視的な成果主義を否定し、成果に結びつくかどうか分からない研究の芽を支えていく仕組みづくりが重要だと述べた。読売は少し視点を変えて日本の人材不足や競争力の低下、論文発表数の減少を取り上げ今回の受賞による日本の「もの作り」の再活性化に期待したいと結んだ。研究者の待遇改善問題を取り上げれば読者がより問題意識を持てるのではないかと思った。

 他に朝日は研究予算や博士課程への進学率などの数字データは豊富だった。読売は各国メディアが今回の受賞を称えているという内容を唯一掲載していた。また毎日はLED市場や株価のデータを載せており、経済面での影響を示していた点がよかった。


東海道新幹線開業50周年 世界に誇る新幹線の飛躍これからも

           (論評対象 2014年9月29日付朝刊~10月7日付朝刊)                      

                                             
 
                横浜国大ジャーナリズムスタジオA班 岩下詩帆 
                  

東京、名古屋、大阪を結ぶ東海道新幹線が10月1日、1964年の開業から50周年を迎えた。当時「夢の超特急」と呼ばれた新幹線は今までで延べ56億人もの乗客を運びその一方で半世紀にわたり乗客の死亡事故ゼロであるという偉業を達成した。今でもその記録を更新し続けている。 
朝日、毎日、読売各紙新幹線50年の社説を掲載した。三社ともに新幹線のスピード、安全性、運行管理の素晴らしさを上げ、さらなる高みを目指すよう求めていた。 
スピードは片道6時間から新幹線開業により4時間さらに現在では二時間半を切ったことが述べられていた。安全性の高さも指摘し、その支えは性能などのハード面だけではなく、保守点検などの地道な努力にもあるとした。これらのことに対し、毎日1日付の社説で「日本ブランドの象徴的存在になった」と述べ読売は5日付の社説「日本が世界に誇る貴重な財産」であると高く評価した 
超過密ダイヤでも遅延が平均1分以内という緻密さについて朝日と読売は「世界に類を見ないし、毎日は「世界が驚嘆」と述べ、世界レベルでも最高水準を保っていることを示した 
一方で朝日と読売は新幹線安全神話に陥らないようにと釘も刺した。特に朝日は喫緊の課題として施設の劣化指摘し、「今後も最新の知見に素早く対応し、『想定外』を埋めて言ってもらいたい」と要求した毎日も速度や路線の延伸といった従来の価値観に対して挑戦するだけでなく、人口減少や高齢化、外国人旅行者の増加など役割の変化を先取りしていくことを要求した。 
読売は他の二社とは異なり、安倍政権の成長戦略において新幹線の重要性の高さについて言及していた。新幹線は成長戦略の柱となるインフラ輸出の目玉となるため、官民挙げて海外に売り込む重要性を挙げた。安倍政権も視野に入れた見方をしているのが印象的だった 
朝日は9月29日付朝刊に歴代新幹線の紹介と新幹線関係者や芸能人のコメントを掲載した。見開きで図や写真を載せるなどの工夫が見られ、わかりやすかった。5日~7日にかけて「夢の超特急50年」(上・中・下)と題した連載では5日と7日に新幹線関係者や利用者のエピソードを多く掲載した。今でもさまざまな立場の人に広く親しまれていることがよく示されていた。一方で6日の朝刊では「210の命 死者ゼロの礎」と題し新幹線建設の際に工事で殉職者がでたことについても触れた。7日付の朝刊では新幹線開通により大阪の企業が流出し、新たなリニア中央新幹線開業においても再びストロー効果が起きる可能性を挙げていた。ストロー効果の問題は朝日でのみ述べられており、印象的だった。 
毎日は10月1日付朝刊の企画特集で新幹線の変遷を紹介した。速さ、安全性や快適さが世界に誇れるものだと述べ、一方で災害への備えも必要であると述べた。 
東海道新幹線の1日の平均輸送人員のグラフや東海道新幹線の路線図など他社にはない図やグラフがあり見ていて興味深かった。 
毎日も前月30日~2日にかけて「駆け抜けた半世紀」(上・中・下)と題した連載を行った。30日には「名もなき殉職者210人」と題し朝日と同様に新幹線建設が多くの命犠牲のもとに作られたことを挙げた。1日に国鉄の赤字経営、2日には新幹線の建設において沿線自治体との交渉の苦難を取り上げた。新幹線建設から今に至るまで道のりは容易くなかったことがはっきり示されていた 
読売は連載がなかったが10月1日の夕刊1面で東海道新幹線50周年の出発式の様子の写真で1964年のものと2014年のものを並べて掲載した。時代を感じさせる印象的な2枚であった 
各社とも新幹線は世界に誇るべきものだとし、スピード、安全性、運行管理の点から高く評価した。特に朝日と毎日は連載を企画し、今ではあまり知られていない殉職者についての記事も掲載してあるのが良かったと思うまた三社とも災害などに対する安全性の向上に努めることを求めていたが、読売はより具体的に問題を示したほうがわかりやすかった 

2014年11月5日水曜日

川内村の避難指示解除 政府の対応と地元住民とのズレ

         (論評対象 2014年9月30日付朝刊~10月5日付朝刊) 
        

                横浜国大ジャーナリズムスタジオA班 岩下詩帆 
 
 
東京電力福島第一原発の事故を受け、その20キロ圏内にある福島県川内村東部に出されていた避難指示が10月1日をもって解除された。解除は今年4月の田村市都路地区に次いで2例目となる。 
 
この政府の避難指示解除に対し、毎日は消極的な見方の記事を、読売は積極的な見方を述べる社説を掲載した。朝日は積極的な意見の記事も載せるも消極的な意見が強かった。 
 
毎日は避難指示解除前日の9月30日付朝刊の第1社会面に「本当に生活ができるのか」と題した4段にわたる記事を載せた。川内村の避難民のインタビューを掲載し、帰村が容易に行えない現状を紹介した。また国が避難指示解除の1年後月10万の精神的賠償を打ち切ることに対し、「川内村は教育も医療も沿岸部の町に頼っていた。沿岸部が復興していないのに既存を促しても本当に生活できるのか」という郡山市の仮設で村民の相談に応じるNPOの代表者の意見を載せ政府の対応に疑問視する見方をとった。 
 
朝日も同様に10月1日朝刊の第3社会面で「住民の多くは当面避難先にとどまりそうだ」と述べ、避難指示解除の効果の薄さを予想した。一方で地域復興のために花を特産にしようと取り組む夫婦や村が工業団地を造り、外から人を誘致する計画があることを取り上げ再生の道も探っていた。 
 
読売は他の二社とは異なり10月5日の社説で帰還者をしっかり支えよう」という見出しで復興の契機となることを期待した積極的な見方の意見を掲載した。「日用品を扱う商店や医療機関の整備も進んで」いると述べ、復興が着々と進んでいるような印象が受けらた。ただ、朝日や毎日と同様に避難指示解除の1年後に東電からの毎月の支払が打ち切られることが住民が解除に応じにくい要因だとは指摘し、政府に新たな援助措置を求めていた。 
 
これほど深刻な原発事故は今までに前例がなく、国民の健康に及ぶ問題でもあるので福島第一原発の事故における帰還問題は容易には解決できないことは確かである。政府の対応処置とその処置がどれほど当事者にマッチしているかが鍵である。その点で毎日は多くの避難民に焦点を当てていたのはよかったと思う。また朝日は避難指示解除について前向きな立場と後ろ向きな立場両者の意見を載せていたのもよかった読売は社説では川内村について詳しく述べられていたが、事実を記載した記事が他社に比べて少なかった。