2014年10月30日木曜日

川内村の避難指示解除 復興のきっかけになるか


           (論評対象 2014929日付朝刊~109日付朝刊)

               横浜国大ジャーナリズムスタジオB班 足立冬馬

 2014101日、東京電力福島第一原発の事故による福島県川内村東部への避難指示が解除された。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の大手3紙はいずれもこの話題に触れている。避難指示の解除について読売は肯定的、朝日と毎日は否定的なスタンスをとっており、意見に違いがみられたが、各紙ともに、「避難指示の解除が即生活に結びつくわけではない」という主張は共通してみられた。

 まず朝日は101日付朝刊の33面で「川内村再生へ 険しい道のり」という見出しの下、生活圏である沿岸部の避難指示が解除されていないため川内村の住民も不便な生活を強いられることになり、「住民の多くは当面避難先にとどまりそうだ」との見解を示している。一方で、復興に向けて花を特産品にする、工業団地を建設する、といった地域興しの具体的な動きも紹介しており、厳しい状況の中でも光が見えていることが示唆されていた。

 毎日は、930日付朝刊の第二社会面トップ記事で「本当に生活できるのか」という見出しの下、小学校で一人で授業を受けている女の子の写真を掲載した。今後本当に生活できるのか、という危機感を抱かせるとともに、いかに人が少ないのか、いかに厳しい状況なのかを一目で理解させるだけのインパクトのある写真だった。また、毎日の取り上げている住民の声はどれも生活に対する不安ばかりであり、避難指示の解除後も川内村は厳しい状況に変わりない、という主張を読み取ることができた。

 朝日と毎日はどちらも現地の住民に焦点を当てており、住民の意見を交えながらの記事だった。3紙とも地図を掲載していたが、毎日の地図は記事の内容に即しており、理解しやすいものだった点で評価できる。朝日は、避難指示解除によって村に戻る人数や世帯数などを具体的に示してくれると親切だった。

 読売は大手3紙の中で唯一、105日付朝刊の社説でこの話題に触れた。「帰還者をしっかりと支えよう」という見出しで、「避難解除が復興の契機となるとの期待は大きい」、「少しでも多くの住民が古里に戻り、生活を再開する。それが復興の礎となるだろう」と述べている。また、廃炉関連の研究開発事業での雇用確保や生活資金を東電が一括支給する、といった復興に向けての提言もしており、他の2紙とは異なり、避難指示解除に肯定的な姿勢を見せた。
 読売が101日付朝刊の37面で川内村の避難指示解除に伴い村に戻る人は住民登録している人のうち2割に満たないとしているのに対して毎日は「人口の約半数が生活基盤を村に戻した」としており、ここまで数字に食い違いが出ることに対しては疑問を抱いた。

新幹線50周年 安心と安全をこれからも


                                                     (論評対象 2014929日付朝刊~109日付朝刊)

              横浜国大ジャーナリズムスタジオB班 足立冬馬

 2014101日をもって、JR東海道新幹線が開業から50周年を迎えた。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の大手3紙は各紙とも社説で取り上げるなど、新幹線50周年を1つの大きな節目として扱っている。3紙ともに新幹線の事故における死傷者数が0であることを中心に新幹線の安全性を高く評価しながらも、現状に満足することなく更に高みを目指していくべきだ、という主張が共通して読み取れた。

 朝日新聞はまず929日付朝刊の(20.21面)で二面にわたり、0系からN700系までの歴代の新幹線が載っている見開きのカラー写真を掲載した。非常にインパクトが大きい写真なので目に止まりやすく、新幹線の長い歴史を一目で実感でき、印象に残る紙面だった。

 また、朝日は1057日にかけて「夢の超特急50年」(上、中、下)の連載を行った。5日付朝刊の第1社会面(35面)「鉄道の母国 たたえた技術」では、鉄道発祥の地である英国も日本の新幹線から技術を学んでいるということを挙げ、日本の技術力の高さを述べた。6日付朝刊34面「210の命 死者ゼロの礎」で、新幹線建設の際に210人の犠牲者が出たことを忘れてはならない、と説いている。7日付朝刊34面「狭まる日本 幸せ運ぶ」では、新幹線の利用者のエピソードや大阪の企業が東京に流出していった話などを載せており、新幹線が日本の交通に与えた影響の大きさを説いている。

毎日新聞では、930日付夕刊2面に新幹線建設工事の際の210人の殉職者について、遺族の声を交えてメイン記事で詳しく取り上げている。我々が快適に利用している新幹線を複雑な心境で眺めている人もいるのだということ、そして尊い犠牲の上に今の安全な新幹線が成り立っているのだ、ということを認識させる記事であった。

毎日も、930日~102日にかけて「駆け抜けた半世紀」(上、中、下)の連載を行った。毎日の連載は、「新幹線は人に対してどう影響したのか」というコンセプトの下で個人談を多く取り上げており、共感しながら読むことができた。

 また、101日付朝刊の社説では、新幹線は機械的な技術のみではなく、素早く清掃を終える清掃員などの人の手があってこそ正確で安全な運行が可能になっている▽新幹線の更なる進化のためには人口減少や高齢化などの社会問題にも柔軟に対応していく必要がある、という旨を述べており、これからの日本社会に適応していく手段の一つとして納得のいく指摘だった。

 読売新聞は、101日付夕刊の1面で新幹線50周年について取り上げており、出発式の写真を、50年前の開業当時の白黒のものと今年のカラーのものと2つ並べて掲載しており、歴史を感じさせる上手な写真の使い方であった。しかし、朝刊しか新聞をとらない人が多いことも鑑みると、101日付朝刊に掲載しなかったことで、新幹線50周年のニュースを伝えきれていないのでは、と思った。