2014年12月19日金曜日

衆議院選挙社説 各紙の注目点は



横浜国立大学ジャーナリズムスタジオ1B班井手千夏

(対象記事:1127日朝刊~123日朝刊)

 1121日に衆議院が解散して約二週間が経つ。122日公示・14日投開票の衆議院選挙に向けて、朝日、毎日、読売の大手3紙は連日社説で衆院選についての話題を取り上げている。衆院選に対する高い注目度が伺える。

 各紙に共通する話題としてまず、27日に3紙とも参議院選挙への言及をしている。朝日は「国民の代表と言えるか」と参院の違憲状態に言及し、参院ならではの価値を生み出せる選挙制度にする改革が必要だとした。毎日は「再びの警告受け止めよ」と国会のこれ以上の司法軽視は許されうることではないとした。読売は「国会の裁量権尊重した最高裁」と2回の違憲判決を受け止め、格差是正に本気で取り組むよう忠告した。衆院選が注目される中、参院にも言及した点は良かった。    

また各紙とも有権者への注文づけをしている。朝日は2日、政治は「悪さ加減の選択」とも言われており選ぶことは難しいが、票を投じることで政治のありようは変わりうると述べた。 毎日は2日「国民が主導権を探ろう」と関心の低さや投票率低下を指摘し、選択肢不足と嘆かずに、主体的に考えるように呼びかけた。読売は2日に「誇りなき日本の未来定めたい」と述べ、どの政党や候補者に日本の将来を託すべきか、政策や能力を見極める必要があるとした。投票率の低下が叫ばれる中、政党などに注文をつけるだけでなく、日本の未来のために自らでしっかりと考え、投票に行くよう有権者に呼び掛けているのは評価できる。

 朝日は29日「政権党が言うことか」と自民党がテレビ局に公平を求めるお願いをしたことに対し、政権から報道機関への要望を公開すべきだと述べている。安倍政権に多く見られる報道への介入に言及しており良かった。毎日は29日「戦後70年を見据えて」と日本の歴史を絡ませつつ安倍首相を批判しており、他社にはない切り口であり興味深かった。読売は28日「持続的成長の処方箋を競え」と経済中心のアベノミクスを支持し、また民間活力を引き出して行くべきだと主張した。

黒人暴動 米全土に拡大



横浜国立大学ジャーナリズムスタジオ1B班井手千夏

(対象記事:1126朝刊123朝刊

今年8月米ミズーリ州ファーガソンの住宅街で武器を所持していなかった黒人少年ブラウン氏(当時18歳)を白人警官が射殺した。24日射殺した白人警官は不起訴とされ、この不起訴に黒人住民らが反発し、暴動が拡大。抗議デモはロサンゼルスやニューヨークなど全米各地に広まった。朝日、毎日、読売の大手3紙は主に、1面、国際面などでこの記事を掲載した。     

各紙黒人大統領として自ら差別問題に取り組むオバマ大統領の声明を掲載した。朝日は26日朝刊11面でオバマ大統領は「これはファーガソンだけではなく、米国の問題だ」という声明を出して平和的な抗議を求めたとした。毎日は同日朝刊5面で、不起訴決定を受け入れるよう訴える一方「法執行機関と有色人種の間に深刻な不信がある」と述べた。また読売は同日朝刊8面で「米国は法治国家であり、大陪審の決定を我々は受け入れる必要がある」という声明に対して、大統領は人々に冷静な対応をするよう呼びかけていると述べた。

朝日は26日朝刊11面でブラウン氏の両親の「非常に残念だ」「暴力に暴力で応えるのは間違っている」、毎日は27日朝刊2面で「暴力に暴力で報復することは適切ではない」という声を掲載した。当事者の家族のコメントを掲載することで読者の興味を惹きつけた。毎日は27日夕刊10面で、白人女性が町中に絵を描き、人種を超えて共存することを願う活動の様子を載せた。黒人によるデモだけでなく、白人による活動に注目した点はおもしろい切り口であった。読売は26日夕刊3面で、国連のフセイン人権高等弁務官の声明を掲載し、米司法制度の公平性に懸念を示したと述べた。国連の声明を掲載することで、この事件がいかに世界的に重大な出来事であるかを再認識させた。また27日朝刊2面でデモ隊と州兵がにらみ合う写真が掲載されており、見ているこちら側にも緊迫感が感じられ、印象的であった。3紙に共通して、市民の意見を多く載せており、市民目線の報道は良かった。

 しかし3紙とも多くの日本人には馴染みのない米国の司法制度である「大陪審」という言葉についての説明がなく残念だった。読売は、26日朝刊8面で大陪審の人種構成について説明していたものの不十分であった。

この事件は、今なお米国のみならず、世界中で差別が根絶していないことを象徴する大きな出来事であった。今後も3紙には、この事態がどう収束していくのか、更なる報道記事を期待する。

2014年12月18日木曜日

内閣解散、安部政治2年を問う衆院選へ

対象記事:11月19日朝刊〜11月26日夕刊
筆者:横浜国大ジャーナリズムスタジオA班  釜堀美里

安倍首相は11月18日夜、来年10月に予定されていた消費税率引き上げを先送りにし、21日に衆院解散に踏み切る意向を表明した。朝日、毎日、読売の大手3紙は、連日社説や特集面、連載を用いて、この話題を大きく取り上げた。各紙ともに、今回の衆院選の争点に言及する記事が多く掲載されていた。
 社説では、三社共通してアベノミクスの話題を大型社説で取り上げており、経済問題への高い注目度が伺えた。一方で、自民と民主の公約が発表された25日、26日の社説では、公約が抽象的であるとの批判も共通して見られた。また各紙ともに、原発問題や安保などにも言及、毎日は23日、24日に原発再稼働と集団的自衛権についてそれぞれ大型社説で取り上げており、他社よりこれらの話題に力を入れている印象を受けた。原発問題に関しては、読売が24日社説で、経済安定のためには電力供給の安定が不可欠とし、各党エネルギー問題について話し合い、党の考えを発信すべきだという注文をつけた。さらに、各社ともに憲法改正の話題についても触れた。朝日、毎日は首相の改正を軽視する姿勢を批判したが、反対に読売は「今後の課題はどの条項をどう改正するかだ」などと改正を推進させる姿勢を見せた。また朝日は、23日社説で与党公明党について取り上げており、他社には無い視点が評価できた。
 朝日は他に、論説主幹や特別編集委員の論文を掲載、内閣解散を今日の日本政治の重要な節目と捉えていることが分かる。特に21日朝刊1面の「社会の亀裂をつなぐ政治を」という論説主幹の論文は、まず民意の統一を図る海外の政治と比べ、現在の日本政治は民意を求めずに進めているなど、海外との比較から解散を批判しており興味深かった。
 また解散に伴い、読売と毎日は2本、朝日は1本の連載を行っている。読売の24日から開始した連載「視座」は、毎日1人の識者たちが専門の視点から政治の現状とその解決策を示していた。他社と異なり、批判に終わらず具体的な打開策を提示した点は評価できた。毎日の20日~25日に掲載された連載「大義の陰で」は、生活への影響など、国民に密着した内容を取り上げていた。解散による影響を身近に感じることが出来る良い記事だった。
 各紙で目を引いた記事として、朝日は20日朝刊38面で、選挙費用を他の困窮している事業に回した場合の利益を述べて解散を批判した。また読売の25日朝刊17面の特別面では、豊富な図とともに安倍政治の2年間をわかりやすく解説していた。普段政治に関心の無い国民は多いので、このような解説を掲載しているのは評価できた。毎日は他社より解説の少ない印象を受けたので、コラム「なるほドリ」などでさらに説明を増やすべきと感じた。
 衆院選の投開票は12月14日に行われる。国民が今後の日本政治について熟考した上で投票できるよう、各紙には今後とも幅広い視点からの情報提供を期待したい。

2014年12月14日日曜日

沖縄県知事選 翁長氏と政府の対応今後いかに


(論評対象 20141117日付朝刊~19日付朝刊)
横浜国大ジャーナリズムスタジオ1A班 岩下詩帆

沖縄県知事選が16日投開票され、前那覇市長の翁長雄志氏が現職の仲井真弘多氏ら3氏を破り、初当選を果たした。日米両政府が普天間飛行場の全面返還に合意して以降の5回の知事選で、辺野古移設に反対を掲げた候補者の勝利は今回が初めてであった。この結果を受け、大手3紙はともに米軍普天間飛行場から名護市辺野古への県内移設が最大の争点であったするものの、辺野古移設については異なる見解を示した。

朝日毎日はそれぞれ1117日付社説で「辺野古移設は白紙に戻せ」、「白紙に戻して再交渉を」と見出しをつけ、ともに一本社説で掲載した。双方は今回の知事選をはっきりとした民意のあらわれだとし、政府は移設推進を断念せざるを得ないとの見方をとった。翁長氏が「イデオロギーよりアイデンティティー」と唱え、保革を超え新たに「沖縄対本土」の対立構図掲げて勝利したことにも注目した。また米国内でも計画に異論があるとし、政府が辺野古移設を「唯一の解決策」とすることに疑問を示した。さらに朝日は公約違反をした地元政治家への拒否であったとし、毎日は政府の対応によっては本土と沖縄の溝がより深まることを懸念した。

一方読売は同日付社説で「辺野古移設を停滞させるな」と見出しを掲げ、朝日や読売とは異なる移設容認の立場をとった。翁長氏が具体的代替案を示さなかったことや法的瑕疵のない承認の取り消しは困難なことを指摘し、現実路線に立つべきだとも述べた。

県知事選翌日17日付朝刊の第一面でも各紙に違いがみられた。朝日毎日ではトップ記事として扱い天声人語や余禄も含め、ほぼ一面にわたり記載した。一方で読売は第一面に3段で掲載するのみであった。朝日と毎日は知事選の結果を受けたアメリカの反応を掲載した。朝日は17日付朝刊2面で「米、移設先行きに懸念」と題し翁長氏の言動を注視しているとのべた。毎日も17日付朝刊3面で「米は警戒感」とし、移設停滞を懸念していることを明らかにした。一方、朝日は17日付朝刊2面に、読売は17日付朝刊38面に有権者である沖縄県民の意見も記載した。地元沖縄県民の実際の思いが知ることができ、良かった。

朝日は17日付朝刊第一面に那覇総局長による記事を掲載した。選挙で敗れたのは確かに仲井真氏であるが、本当に敗れたのは今まで沖縄の民意を汲みとってこなかった政府や本土であるとした。朝日はさらに衆議院選挙の影響についての見方も示し、17日付3面で「地方の民意を掬い取ることに苦戦気味」だと踏み込んだ。

毎日は17日付朝刊3面の一面全てを使い、「クローズアップ」に4段にわたる辺野古移設の記事と解説コラム「なるほドリ」を掲載した。辺野古と普天間飛行場の位置を示した地図や出口調査の結果のグラフが掲載され、目を引いた。問題を噛み砕いて解説もしており、よく理解できた。また18日付朝刊3面では「目に見えぬ海溝」と見出しを付けた「火論」を掲載した。沖縄県知事の職に殉じた島田叡の話から沖縄県知事選について論じるという切り口が新鮮であり、興味深かった。

読売は7日付朝刊2面に掲載された「想定される翁長新知事の戦略と政府の対応」という図を記載し、今後の流れが分かりやすかった。

沖縄の基地問題は沖縄対本土だけの問題だけではなく日米間の、安全保障の点では国際間の問題にも及ぶ。その点で政府の方針を支持する読売側のスタンスも理解できる。しかし沖縄県民の民意を政府、本土がしっかりと汲み取ってこなかったことに対し、非難し辺野古移設に反対の立場を鮮明にした朝日や毎日を評価できる。

羽生選手の激突後の演技、どう見るか


(論評対象 20141112日付朝刊~19日付朝刊)

横浜国大ジャーナリズムスタジオA班 岩下詩帆


8日、上海で行われたフィギュアスケートGPシリーズ第三戦の中国杯で、羽生結弦選手が男子フリーの演技直前の練習中に中国人選手と衝突した。羽生選手は頭部や顎を負傷したものの演技を行い、総合で二位に入った。
各紙はこの事故を受け翌日の時点では事故の様子を詳細に記載し、羽生選手のスケートに対する前向きな態度を評価した。朝日は9日付朝刊社会面第1面において「流血の羽生、意地の舞」と題した記事を掲載し、毎日も9日付朝刊社会面1面で「執念を見せつけた」として演技を行ったことに肯定的な見方をとった。一方読売は9日付朝刊社会面第一面で「羽生選手投資に称賛の声」と見出しを掲げ、演技を行った羽生選手を他2社よりさらに高く評価した。
しかし朝日と毎日は羽生選手が帰国した10日以降、羽生選手の出場に懸念を抱く主張へと転じた。両社はともに社説を掲載した。朝日は14日付朝刊で「安全を最優先にしよう」と題し、毎日は12日付朝刊で「脳しんとうを軽視するな」と見出しを掲げた。双方とも羽生選手の将来を思い演技をやめさせるべきだったと主張した。また脳しんとうやセカンドインパクト症候群など頭を打った場合の危険性を述べ、他のスポーツでの対応にも触れた。その上で朝日はフィギュアスケート界でも安全を守るルールや仕組みを整えるべきだと唱えた。毎日はさらに踏み込み、スポーツ界だけでなく社会全体で脳しんとうの怖さを共有することが不可欠だと述べた。

朝日は11日付37面で筑波大教授やカナダのスピードスケート連盟が国際スケート連盟に対し、ガイドラインの設置を提言していることも掲載した。具体的な対処法を載せていた点が良かった。毎日は11日付朝刊社会面2面で羽生選手の衝突後の様子が脳しんとうの恐れがある状態であったことを具体的に4つ指摘しており、その点が分かりやすかった。選手第一主義という意味のアスリートファーストという言葉も印象的だった。一方読売は、9日付朝刊社会面1面でファンから心配される声がインターネット上にあがったことは述べたが、それ以上の記載はなかった。読売も朝日や毎日のように安全性について言及した記事があったほうが望ましかった。
 
  羽生選手はソチ五輪の金メダリストであり、まだ19歳という前途多望な選手である。そのためフィギュアスケート界での今後の安全策が課題であるという朝日の指摘や、脳しんとうにおける一般認識を広める必要性を説く毎日の指摘は的をえていたように感じられた。

2014年12月11日木曜日

沖縄県知事選 民意を反映した結果に


                     (論評対象:20141117日付朝刊~19日付朝刊)

               横浜国大ジャーナリズムスタジオB班 足立冬馬

 

 20141116日に投開票された沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を謳う翁長雄志氏が当選した。これは、辺野古移設に反対であるという沖縄県民の民意がはっきりと表れた結果である。朝日、毎日、読売の大手3紙はいずれも1面や社会面などで大きくこの選挙を報じた。

 各紙ともにこの選挙結果について1117日付朝刊の社説で取り上げた。朝日は「辺野古移設は白紙に戻せ」という見出しの下、一本社説で移設について言及した。辺野古移設か普天間の固定かの二者択一に固執し、代替案を無視する政府の手法は適切ではない、との批判を交え、代替策を考えるべきだとした。毎日も同じく一本社説で「白紙に戻して再交渉を」という見出しの下、移設に対して否定的なスタンスをとった。また同じ社説の中で、本土の人間の沖縄に対する関心が薄い、ということや、米国内でも移設に反対意見が出ていることなどを述べた。朝日と毎日は辺野古移設に対して否定的なスタンスをとっている点で共通している。

一方読売は「辺野古移設を停滞させるな」という見出しで社説を載せており、米軍基地の辺野古移設は現状最も現実的な方法であるとし、移設容認の姿勢を見せた。これは朝日や毎日とは正反対のスタンスであり、ここまではっきりと社の姿勢の違いがみられたのは興味深かった。
 ここから各紙の特徴に言及していく。朝日は17日付朝刊1面で、今回の選挙で敗れたのは政府と本土である、という趣旨の、那覇総局長の論文を掲載した。総局長の論文を載せていたのは朝日のみだった点で評価できる。毎日は17日付朝刊29面の翁長氏の人となりに焦点を当てた記事や、同じ面で載せていた我部政明琉球大教授の意見の中の「仲井間氏のオウンゴール」という言葉など、他社にない切り口が興味をそそった。読売は17日付朝刊38面で辺野古商工社交業組合長の意見を掲載した。辺野古反対の動きの中で振興策に対する不安があることを示唆しており、振興策の視点から地元民の意見を取り上げることで切実な問題であることを実感させた。

羽生選手衝突事故 安全を重視する機会に


                        (論評対象:2014119日付朝刊~19日付朝刊)

                  横浜国大ジャーナリズムスタジオB班 足立冬馬

 

2014118日に行われたフィギュアスケートグランプリシリーズ中国杯で、羽生結弦選手が演技直前の練習で中国人選手と衝突し負傷する事故が起こった。脳震とうの疑いもあった中、羽生選手は本人の意思により強行出場し、見事2位に輝いた。朝日、毎日、読売の大手3紙はいずれもスポーツ面のみでなく社会面にまでこの事故に関する記事を掲載しており、関心の高さがうかがえた。

毎日は12日付朝刊の社説で、事故が起こったにも関わらず演技を強行した羽生選手を脳震とうの恐れの面から心配しており、脳震とうの怖さを社会全体で共有すべきだとした。朝日も14日付朝刊の社説でこの事故について触れており、スポーツ選手が試合出場にこだわるのは当然であり、安全のためのルール作りを急ぐべきだ、と提言している。読売はこの事故に関して社説がなく、他の2社に比べて注目度に違いがみられた。

毎日の9日付朝刊25面では、必死の形相でジャンプをしている羽生選手のカラー写真が掲載されており、臨場感と必死感が伝わってきた。また、朝日の9日付朝刊の第2社会面と読売の同日付朝刊26面では衝突直後、流血し係員に支えられながらも一点を見つめている羽生選手の写真が掲載されており、痛々しさと同時に羽生選手の気迫が感じられた。このように、各紙印象的な写真を用いることでより効果的に読者の関心を引き付けていた。

毎日の9日付朝刊25面の「羽生 不屈の2位」や、朝日の同日付朝刊第2社会面の「流血の羽生 意地の舞」といった見出しからわかるように、各紙表現に違いはあるが、事故が起こった直後の報道はどれも羽生選手の執念の演技をたたえていた。しかし、朝日と毎日は社説に顕著に表れているように、脳震とうの可能性がぬぐえないまま演技を行った羽生選手への心配や、安全のためのルール制定の提言などに論調が変化していった。このように論点が移り変わっていくのは読んでいて興味深かった。一方読売は9日付朝刊第1社会面で羽生選手を称賛する記事を載せていただけで、脳震とうの危険性などに警鐘を鳴らしていなかったのは残念だった。

朝日は9日付朝刊24面で、過去にも同じような事故が数例起こっていることに言及、フィギュアスケートの演技直前の練習方法の改善を促した。

2014年12月4日木曜日

特定秘密保護法案の施行決定 出版・報道業界に影響

(論評の対象範囲1014日付夕刊~1022日朝刊)
筆者:ジャーナリズムスタジオB班1年松本朱音

  政府は、1014日特定秘密保護法案の運用基準と政令を閣議決定し、施行日を1210とすることを決めた。

  これを受け朝日・毎日・読売各紙は14日付夕刊の1面でその決定を伝えた。朝日は15日付朝刊5面で今回新たに示された法案の運用基準55項目をすべて載せた。これにはパブリックコメント(意見公募)が寄せられ政府により運用基準一部修正されていたが、朝日はその変更に対して「あいまい」と述べていた。また特定秘密を検証する独立公文所管理監の「権限の弱さ」を挙げ不安要因について触れていた。その機関について懸念される課題点は15付朝刊3全面に載り、社会面(38)には法案に対する抗議活動の様子取り上げられていた。一方で15付朝刊3には、安全保障上の問題から「特定秘密保護法案が必要になる」と述べる教授の話も掲載されており主張のバランスていた。なお、朝日は他の二社とは対照的に法案についての社説を掲載しておらず、法案に対する最終的な立場あいまいに感じられた。

  毎日は、朝日と同様に15日付朝刊5面に運用基準55項目をすべて載せた。法案の廃止・撤廃の意見書を可決した市町村議会に関する記事を載せた。また、日本ペンクラブをはじめとする出版業界、報道関係者による法案の懸念要素、『知る権利』を守る姿勢を表したコメントを多数載せており、朝日と同じく抗議活動についても触れていた。
15日付朝刊の社説ではパブリックコメントを受けて一部修正された運用基準について、「微修正にとどめた運用基準は評価できない」と述べた。法案自体に対して、「民主主義の原則が十分尊重されないままの施行に改めて反対する」と強い意見を示した。今後現実に、施行されても「『知る権利』を託された報道機関の役割は変わらない」と社の姿勢を表した。

  読売は関連記事の掲載が、政令の決定された14日夕刊と、翌日朝刊の23面のみで他の二社に比べて明らかに少なかった社説で「国民の『知る権利』を守りつつ、秘密情報の漏洩防止と両立させることが肝要である。」と述べ、安全保障の必要性も述べていた運用基準については「まだ不十分だ」としつつも、「建設的な提案を積極的に運用基準に反
映したことは妥当である」と評価しており、読売の決定容認の姿勢がうかがえた。政府の示した運用基準については読売のみが「かなり具体的な線引き」と評価していた。
特定秘密保護法案の施行決定に対して、各社の態度の違いは記事数、記事の内容、社説から伺えた。ただ、朝日に関しては社説がなく、社としての立場が明確にわからず残念であった。出版報道界において重大な節目になる今回の決定に際して、意見を表明すべきであったのではないかと感じる。

2014年12月2日火曜日

小渕、松島両大臣辞任 「政治とカネ」問題再び


(対象範囲1020夕刊~115朝刊)

執筆者:山本舜也(ジャーナリズムスタジオ1年、A)


 小渕優子経済産業相と松島みどり法相が20日、安倍首相に辞表を提出し、受理された。小渕氏には後援会が会員向けに開いた観劇会の収支が食い違っている問題が浮上。松島氏は選挙区内で「うちわ」を配ったことが野党の追及を受けていた。朝日、毎日、読売の大手3紙は20日夕刊、翌21日朝刊ともに1面トップ記事で大きく取り上げ、このニュースの重大さがうかがえる結果となった。 
 21日付朝刊では、朝日(14,社説,36,37)、毎日(13,社説,6,24,25)7面、読売(13,社説,4,7,1012,38,39)11面と大臣辞任関連の記事を載せ、大きく紙面を展開した。各紙の姿勢は社説に現れた。
  朝日、毎日は、見出しをそれぞれ「首相が招いた異常事態」「失態を謙虚に反省せよ」とし、2大臣に辛辣な意見を寄せつつも首相の任命責任を厳しく指摘した。朝日では、内閣改造を機に閣僚の問題行為が続出したことをその理由に挙げた。
 毎日では、それに加えてこのことが女性の社会進出の妨げになってはならないと釘を刺した。また「有権者に取り入ろうとする古い政治体制と決別を」と首相のみならす自民党へ与党としての責任を問いただした。朝日と内容は似ていたものの毎日は1本社説である分、読み応えがあり具体的なところが評価できる。
 一方読売では、「早急に政権の体制を立て直せ」という見出しと共に、小渕、松島両大臣への指摘を中心的に述べていた。首相に関しては、「任命責任は私にある」という本人の談話と、「閣僚起用に関する事前調査が甘かった」と苦言を呈するにとどまった。

 また、江渡防衛相、小渕氏に代わって新たに就任した宮沢経産相、御法川副財務省を始め与党から次から次へと問題が噴出し、各紙は両大臣の辞任だけでなく一連の「政治とカネ」問題を約2週間連続で紙面に掲載した。野党の与党批判の声も日に日に大きくなり、各紙は安倍政権への影響という点でより詳しく報じた。

 政権の支持率は政権運営にとって非常に重要なものである。朝日は27日付朝刊1面、読売は26日付1面と28日付4面で支持率や世論調査に関する記事を載せている。読売では前回調査から9ポイント下落し53%だったのに対し、朝日では3ポイント上昇し49%だったのが興味深い。ただ、両紙ともに政権への大きな打撃はないという見解は一致していた。また、どちらも図やグラフを使用しわかりやすく読者に説明しようとする工夫が見られた。特に読売の28日付4面の世論調査の表が掲載されている記事は、安倍政権の現在の課題に対しての評価が簡潔に、理解しやすく述べられていた。
  毎日は支持率に関しての記事がなく、また朝日、読売と比べると「政治とカネ」に関する記事数が減少したので物足りなく感じた。

 その後、野党からも枝野氏など野党からも政治とカネ問題が発覚し、泥沼化まで進んだ。その際には、毎日(28日付)、読売(30日付)が再び社説でこの問題を取り上げ、現在の政治資金の管理のあり方を指摘し、改善を提言した。朝日がなかったのは残念である。

 一方、安倍首相の「撃ち方やめ」報道の際には首相から朝日を名指しして「ねつ造だ」との発言があった。朝日は31日付の記事に「記事の『ねつ造』はありません」という東京本社報道局のコメントを掲載するという、強気の姿勢にでた。また、その記事内には枝野氏の「産経新聞、毎日新聞、日本経済新聞、共同通信、そして朝日新聞が報道している」という会見も共に載せている。実は読売も30日付夕刊3面の記事に首相が「撃ち方やめ」と言ったという記述がある。また毎日は112日付社説で「首相の『ねつ造』発言 冷静さを欠いている」と題し、朝日の「援護射撃」とも取れる主張を掲載した。このニュースは政治とカネ問題で冷静さを失っている安倍首相をよく表していた。
 特定秘密保護法など報道が逆風にさらされている中、新聞社はこのような姿勢を大切にしていってほしい。

 一連の報道を振り返り、今回の騒動によって報道の重要性がより感じられた。次々と問題が芋づる式に出てきて、政治資金の管理のずさんさを暴いたのは、新聞をはじめとする報道機関の功績が大きいのではないか。大手3紙は、それぞれ立場が異なり掲載量にばらつきはあったものの、比較的報道のバランスはとれていた。

特定秘密保護法 課題残る運用基準

(対象記事 1014日夕刊~1018日夕刊)
筆者:ジャーナリズムスタジオ1年A班 浅井優奈

    政府は昨年末成立した、特定秘密保護法の施行を12月10日とする政令と、法の運用基準を閣議決定した。
    この決定に関して15日付朝刊では、毎日が6ページ、朝日が4ページ、読売が2ページにわたって取り上げた。朝日と毎日は1面トップ記事に掲載、毎日と読売は社説に取り上げており、各社ともにこのニュースに対する関心度の高さがうかがえた。
    社説では毎日と読売が対照的だった。毎日は「恣意的運用を防げない」という見出しで、民主主義の原則が十分に尊重されないままの施行に改めて反対すると主張し、明確に反対の立場を示した。監視組織についても、高い独立性をもったアメリカの情報保全監察局長を挙げ、日本の管理監の権限不足を指摘した。そして最後に、臨時国会で運用基準について洗い流す努力を、と結んでいる。
    一方で読売は「『知る権利の尊重』を貫きたい」という見出しで、容認する立場をとった。国民の知る権利を守りつつ、機密情報の漏洩防止と両立させることが肝要である、と前置きしたうえで、運用基準については「重層的な歯止め規定を盛り込んだと評価できる。現状と比べれば、手続きの透明性が高まることにより、身勝手な運用がしにくくなるはずだ」と評価した。また政府の情報保全諮問会議の座長が、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡辺恒雄氏であることからも、読売が法律容認の立場だということがうかがえる。
    朝日は、分量的にも大きくこのニュースを報じているものの、社説には取り上げていなかった。この法律をめぐっては様々な議論があるのに、それを明確にしないことは言論の放棄も同じといえる。社説に取り上げ、社の意見・立場をしっかり示してほしかった。
 最後に、各紙掲載記事の内容を比較する。毎日は地方議会が批判していることと、秘密指定に向けた準備に追われる各省庁の状況を詳しく載せたことが、他社にはない情報でよかった。それから、政府関係者などの意見まで詳しく書かれていたので、説得力があるように感じた。また読売は、毎日と朝日がともに報道した、パブリックコメントや秘密法案を題材にした法廷ミュージカル、市民による抗議デモについて全く触れていなかった。このことからも、一貫して法律容認の立場をとっていることがうかがえる。朝日は、写真や市民の意見を多く載せていて読みやすかったが、その分、論に対する説得力に欠けるように感じた。また、三紙とも共通して特定秘密の指定や管理の流れが図になっていて分かりやすかった。

米中間選挙オバマ氏大敗 決める政治を


(対象範囲116日朝刊~1111日朝刊)

筆者:ジャーナリズムスタジオ1年B班井手千夏


 114日米中間選挙の投開票が行われ、共和党が上院議席の過半数を獲得し、オバマ大統領有する民主党は大敗する結果となった。朝日、毎日、読売大手3紙は各紙とも紙面を割いて一面トップで報じている。

116日付朝刊で各紙社説に掲載している。朝日は「望みつなぎたい」「民主にまだ希望」と述べ、毎日はオバマ大統領の迷走を懸念しつつも、後世に渡すレガシーを作ってもらいたいと述べており、この2社は民主党やオバマ大統領に少なからず期待を抱いている。一方読売は、オバマ大統領に対する批判が強く、他の2社に比べて民主党にマイナスな評価をしている。3紙はアメリカ総局長の論文を掲載している。読売は116日朝刊2面で、今回の米中間選挙の「米国政治の今」を端的に象徴したとして、無所属候補のグレッグ・オーマン氏に着目しており、他の2社は民主党・共和党に関連した記事ばかりであったのでなかなかおもしろい切り口であった。朝日は116日朝刊1面で、大統領と共和党が互いに歩み寄り課題に対処していくようにと、不信の目が向けられている議会に対して政治の漂流を止めるよう求めている。毎日は116日朝刊2面でTPPにおける日米交渉に厳しさを感じており、日本政府にとって難しい交渉になりそうだと述べている。

 一方3紙に特徴的な点として、毎日は118日朝刊10面で一ページを使った特集面を掲載し、民主の敗因・今後の展望・外交についての3人の有識者の話を大きく載せ、節目感を出していた。また、今回の中間選挙で民主党が大敗したことでオバマ大統領がレームダッグ(死に体)になるとの指摘を踏まえ、「なるほドリ」という解説欄でレームダッグについての解説をしっかり載せており、このような語句に馴染みのない人でも理解できるようにとの工夫が感じられる。読売は116日朝刊6面で日本への影響についての有識者の話を載せ、朝日はフランシス・フクヤマがこのことについて分析したコメントを載せている。また朝日は、116日朝刊11面で地元民のコメントを載せており、地元目線の意見を載せたのは評価できる。

 米の世論は次の大統領選についてもう動き出している。3紙とも次期大統領候補にヒラリー・クリントン氏をあげている。読売は117日朝刊7面で、朝日は116日朝刊10面で顔写真付きで候補者について詳しく書いているものの、毎日は116日朝刊3面でわずかに触れているにすぎなかった。

 米大統領選挙は全世界に影響を与える重大な出来事だ。これからの動向に注目しつつ、3紙には更に掘り下げた分析記事を期待したい。